ふくしネットにいざが目指すもの


平成17年4月、「共に暮らすための新座市障がい者基本条例」がスタートし、「障がいのある人もない人も誰もが一緒に暮らせるまちをめざして」という理念が示されました。そして、市は障がい者一人ひとりの人権を尊重し、個々のニーズに合わせたきめ細やかな支援を行うため、「障がいのある人もない人も分け隔てられることなく、互いに人格と個性を尊重し合いながら共に暮らし、共に創る地域社会の実現」を基本目標に、平成30年度から平成35年度(令和3年度)までを計画期間とする第5次新座市障がい者基本計画並びに平成30年度から平成32年度(令和2年度)までを計画期間とする第5期新座市障がい福祉計画及び第1期新座市障がい児福祉計画を策定しました。そして、現在は第6次新座市障がい者基本計画、第7期新座市障がい福祉計画及び第3期新座市障がい児福祉計画策定に向けた取り組みが始まっています。昨年は、「障がいのある人もない人も共に暮らせる新座市をつくるための調査」が行われ、今年の3月に結果報告書が出されました。今年度は、新座市障がい者施策委員会及び新座市地域自立支援協議会において基本計画の検討が行われます。また、12月にはパブリックコメントも実施されます。冒頭でも示しましたが、基本条例の第1条には「障がい者の自立及び社会参加を促進し、もって障がいのある人もない人も分け隔てられることなく互いに人格と個性を尊重し合いながら共に暮らすことができる地域社会の実現に寄与することを目的とする」とあります。この目的が具現化されるような取り組みが求められています。
さらに、社会福祉法改正により「重層的支援体制整備事業」が創設されました。この事業の背景には「これまでの福祉制度・政策と、人々の生活そのものや生活を送る中で直面する困難・生きづらさの多様性・複雑性から現れる支援ニーズとの間にギャップが生じてきたこと」(厚生労働省)と示されています。これまでの福祉制度・政策は、子ども・障がい者・高齢者といった対象者に応じたものでしたが、課題全体に関わっていくことや人と人とのつながりに着目したコミュニティでの取り組みの可能性に焦点をあてた事業です。この事業の予算化は各自治体が制度設計を行い申請することとなっています。ぜひ新座市でも取り組みを進展させてほしいと考えています。
 また、「障害者総合支援法」においても①「新たな地域生活の展開」②「障害者のニーズに対するよりきめ細やかな対応」③「質の高いサービスを持続的に利用できる環境整備」が改正のポイントとなりました。ここには、「地域福祉」という観点が示されています。
 この理念を受けつつ、「ふくしネットにいざ」においては「共に暮らすこと」「障害者の自立」「就労」を具体化するための取り組みが求められています。そのためには、利用者自身の自助資源(じじょしげん:その人自身が持っている力、得意なこと、関心など自分を助ける資源)を活かすことが必要です。また、人と人との関係性の中での変化も重要な視点となります。
 そして、よりよい支援を行うためには「支援シート」を活用し、利用者のライフステージ(年齢にともなって変化する生活段階のこと)を見通した援助の継続性が求められます。さらに、支援対象者である利用者のリソース(資源:リソースとは支援を必要とする利用者を援助するための人的環境や物的環境、または利用者自身の持つ援助につながる力のこと)を効果的に活用することも必要な観点です。
 また、障害者に関する状況の変化もあります。一つはICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)が、人間の生活機能と障害の分類法として、2001年5月、世界保健機関(WHO)総会において採択されたことです。この特徴は、これまでのWHO国際障害分類(ICIDH)がマイナス面を分類するという考え方が中心であったのに対し、ICFは、生活機能というプラス面からみるように視点を転換し、さらに環境因子等(その人にとって影響を与える外部のこと)の観点を加えたことです。 
次に「障害者の権利に関する条約」の批准(2014年1月)があります。この条約の前文では「障害が発展する概念であることを認め、また、障害が、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずることを認め」とあるように障害を社会との関係性のなかでとらえることやアクセシビリティ(近づきやすさや利用しやすさなど)の問題を示しています。
また、「教育に関する規定(第24条等)」では「インクルーシブ教育制度(inclusive education system)」と「合理的な配慮の提供(reasonable accommodation)」が示されています。また、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(差別解消法)がこの条約を支える国内法として2013年6月に制定され、2018年4月に施行されました。これらの条約や法に沿って地方行政においても取り組むことが求められています。
障がいがあっても地域で共に暮らすためには、福祉サービスを受け身で提供されることではなく、障がい者自身が社会参加していく意識を持てるように暮らしていくことです。
そのためには、「教育」「福祉」「医療」の連携・協働も必要となります。特に「教育」では、「障害者」を「理解」するのみではなく、「共に生きること」を基本とした福祉教育・人権教育が求められます。
また、昨年8月に開催された国際連合の「障害者の権利に関する委員会」では日本の第1回政府報告に関する総括所見で以下のような指摘がされました。(以下抜粋)「障害者、特に知的障害者及び精神障害者を代表とする団体との緊密な協議の確保等を通じ、障害者が他者と対等であり人権の主体であると認識し、全ての障害者関連の国内法制及び政策を本条約と調和させること。」「障害認定及び手帳制度を含め、障害の医学モデルの要素を排除するとともに、全ての障害者が、機能障害にかかわらず、社会における平等な機会及び社会に完全に包容され、参加するために必要となる支援を地域社会で享受できることを確保するため、法規制を見直すこと。」ここでは、更に「アクセスビリティ」(施設及びサービス等の利用の容易さ)や「社会における優生思想、非障害者優先主義によるやまゆり園で発生した殺傷事件」に対する懸念も示されています。
そして、「自立した生活及び地域社会への包容」(第19条)では、「知的障害者、精神障害者、障害のある高齢者、身体障害者及びより多くの支援を必要とする障害者、特に地域社会の外にある施設で生活する障害者、並びに、家族及び地域生活を奪う様々な種類の施設における、障害のある児童の中で、特に知的障害、精神障害もしくは感覚障害のある児童及び児童福祉法を通じた、より多くの支援を必要とする児童の施設入所の永続。」に懸念を示し、「障害者を居住施設に入居させるための予算の配当を、他の者との平等を基礎として、障害者が地域社会で自立して生活するための整備や支援に再配分することにより、障害のある児童を含む障害者の施設入所を終わらせるために迅速な措置をとること。」と示されました。
教育(第24条)では、「医療に基づく評価を通じて、障害のある児童への分離された
特別教育が永続していること。障害のある児童、特に知的障害、精神障害、又はより多くの支援を必要とする児童を、通常環境での教育を利用しにくくしていること。また、通常の学校に特別支援学級があること。」「障害のある児童を受けいれるには準備不足であるとの認識や実際に準備不足であることを理由に、障害のある児童が通常の学校への入学を拒否されること。また、特別学級の児童が授業時間の半分以上を通常の学級で過ごしてはならないとした、2022年に発出された政府の通知。」「障害のある生徒に対する合理的配慮の提供が不十分であること。」「通常教育の教員の障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する技術の欠如及び否定的な態度。」等に懸念が示され、「国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離教育を終わらせることを目的として、障害のある児童が障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認識すること。また、特定の目標、期間及び十分な予算を伴い、全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されることを確保するために、質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること。」「全ての障害のある児童に対して通常の学校を利用する機会を確保すること。また、通常の学校が障害のある生徒に対しての通学拒否が認められないことを確保するための「非拒否」条項及び政策を策定すること、及び特別学級に関する政府の通知を撤回すること。」等を国連の障害者の権利に関する委員会は要請しました。
「障害者の権利に関する条約」は国際条約です。日本国憲法よりは下位にありますが、他の法律より上位に位置します。つまり、とても「重い国家間の約束」なのです。
日々の生活が法の下に営まれていることを考えた時、それらの法が順守され、誰もが幸せに日々を過ごせるように取り組んでいくことが大切なのだと思います。教育について触れたのも幼少期からの対人関係形成が相互理解に結びつき、共に生きる地域社会形成に欠かせないからです。出会ったことが無い人への理解を求めても無理なのです。知識として障害を理解したとしても肌身の付き合いには届きません。ちがいを認めあう日々の積み重ねこそが共生社会を形成していきます。
私たちにとって、日々の活動がこのようなことに連なっていくことができればと願っているのです。
これからも様々な活動を通じて障害者も高齢者も、そして誰もが「共に生きる地域生活」の具現化につながることを目指していきたいと思います。

代表理事 井ノ山 正文